【報道】母国語を奪われた詩人の「大統領」に聞く中国の侵略と核の脅威 : 産経ニュース

投稿日 :2016年10月27日


母国語を奪われた詩人の「大統領」に聞く中国の侵略と核の脅威

母国語を奪われた詩人の「大統領」に聞く中国の侵略と核の脅威 : 産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/161015/wor1610150003-n1.html
2016.10.15 16:00


 海外で活動するウイグル人の組織の一つで、「東トルキスタン」(中国・新疆ウイグル自治区)の独立を目指す「東トルキスタン亡命政府」の大統領、アフメットジャン・オスマン氏(52)が、16日に都内で開かれるシンポジウムに出席するため来日した。詩人として知られ、日本でも詩集を出版している同氏は、中国の政策で固有の文化が奪われつつあるウイグル族の現状や組織の成り立ちを語った。

--「東トルキスタン亡命政府」とは、どのような組織か

 「海外に追放された、あるいは逃れたウイグルの亡命人士がつくった組織で、2004年9月、世界中の8つのウイグル人の組織のトップがワシントンに集まり、正式に成立しました。4年に一度の総選挙で大統領や首相を選出します。憲法や国会があります。メンバーは、世界中に散らばっていますが、主なメンバーはトルコ国籍を持ち、トルコに住んでいます。カナダ、アメリカ、ドイツにも多くのメンバーがいます」


「憲法において、東トルキスタン亡命政府は、1933年に成立した東トルキスタン・イスラム共和国と44年に成立した東トルキスタン共和国(※1)の独立の遺志を継ぐ政府であるとはっきり記されています。この憲法での独立は、奪われた独立を取り戻すという概念で、新たに中国から独立するということではありません。侵略されて、奪われた主権を取り戻すために、私たちは今、戦っています。中国の政権は私たちを分離主義者というが、まったくのでたらめです」

--海外のウイグル人の組織では、世界ウイグル会議が知られています

 「われわれも、世界ウイグル会議も、ウイグルのため、東トルキスタンのために働く組織としては同じです。ただ、目指すところや方法に少し違いがあります。亡命政府は中国の、東トルキスタンで行われているいかなる政策も無視します。東トルキスタンは中国によって不法に侵略された土地。中国の政権はそこでいろんな政策を実施する資格がない。私たちはそれを認めません」


--どのような活動に力を入れているのか

 「東トルキスタンが、中国に植民地化されてしまった問題を国際社会に認識してもらうことが目下の最大の任務です。中国政府は、新疆はいにしえより中国の不可分の一部とい言っているが、その嘘が、受け入れられているのかと疑問を投げかけ、国際社会の正義感を呼び起こしたい。中国政府は東トルキスタン独立運動とイスラム原理主義のテロだとレッテルを貼っているが、自分の土地から侵略者を追い出す運動は、正義の運動であり、イスラムの運動とは無関係だということも訴えていきたい」

--「詩人」がどのような経緯でこのような運動に携わるようになったのか

「私は今でも、詩人です。母国語で詩を書く、書きたい詩人です。私は詩を書いて、母国語で書いた詩が自分の故郷で出版禁止になるという現実に直面しました。私が愛して詩を書いた私の母国語は中国のバイリンガル教育という、実質的には漢語教育の下でなくなる危機に向かっているのを目の当たりにしました。魚は水で生きているように、私たち詩人は言語、言葉の中に生きているものです。中国政権は私のような人間が呼吸している母国語をなくそうと政策を立て、一生懸命にそれを実行しています」


 「私は自分の母国語を守ることは自分を守ることだとさとった詩人であるかもしれない。私は自分の母国語を守るために中国の政権、政策と戦わなければならない立場におかれました。母国語を守ることは私の祖国、侵略された大地を守るということ。守るためには独立を勝ちとらないといけないということに目覚めました」

--どのようにウイグルの言葉が失われているのか

 「中国政府が唱ったバイリンガル教育は、2つの言語を母国語のように話せるウイグル人を育成する方針でしたが、ふたをあけてみると、大学でウイグルの先生がウイグルの学生に中国語で授業をする。ウイグル語で授業をしてはいけないということになった。授業だけではく、クラス会議も中国語で開く。現在、ウイグル語と中国語の両方を使っていいのは、幼稚園、保育園、小学校の低学年までで、これもそのうちなくなります」

 「もう一つ非常に憤りを感じるのは、ウイグル文学だけはウイグル語で教えていいということだったのですが、ウイグルの伝説や物語が全部取り除かれて、中国の文学から訳されたものをウイグル語で教えているのです。ウイグル人は言葉だけでなく、自分たちの文学や伝説、物語というものもわからなくなってきている」


--16日に開く「中国・核の脅威シンポジウム」(※2)の趣旨は

「1964年10月16日、中国政府は、東トルキスタンで最初の核実験を行いました。この日を私たちは東トルキスタンが喪に服した記念日としています。その後も核実験は繰り返されました。その被害の実態を明らかにして、ユネスコの記憶遺産に申請するための署名活動をしたい。被害の実態を科学的に実証した上で、中国政府が、核実験の被害を受けた民に対して賠償をするよう、国連に訴えていきたい」

 ■アフメットジャン・オスマン氏■ 1964年中国新疆ウイグル自治区ウルムチ生まれ。新疆大学からシリアのダマスカス大に留学しアラビア文学を研究。ウイグル語、アラビア語で多くの詩集を刊行。トルコ経由でカナダに亡命し、現在はカナダ在住。 

 ※1 東トルキスタン・イスラム共和国と東トルキスタン共和国はかつて独立を宣言した

 ※2 シンポジウムは16日午前11時~ 東京都千代田区鍛冶町の「TKP神田駅前ビジネスセンター」で開かれ、ウイグル人医師のアニワル・トフティ氏らも登壇予定。